TOP > 恋せよ、オトメ。 浅野妙子・連載エッセイ
恋は“本当に”しないよりしたほうがましなのか
人っていろいろと
不純な理由で
恋をするものなのだ。
最近、同い年の男友達からこんな話を聞いた。
二十代の頃につきあい、結婚寸前までいって破局した女性と、
最近になってよりを戻したという話である。
最近は、相手の職業によっては名前さえわかれば
ネットで検索して
居場所を突き止めることが出来てしまう。
私の友人であるA氏はこの方法で、
ふと気になった昔の恋人の仕事先を探し当て、
彼女の職場宛に手紙を出した。
それがきっかけで二人は再会し、
その日のうちにホテルに行く仲となり、
三ヶ月に一度ほどのデート(ホテル付)を繰り返しているという。
彼女が好きなの?と聞くと、彼は好きだと言う。
だが、恋なの?と聞くと、違うと答える。
会いたさに胸を焦がして
涙するようなかつての恋とは違う。
それは彼女のほうもそうだろう。
お互いに家庭があり仕事がある。
生活は安定し子供たちは自立している。
配偶者に不満があるわけでもない。
ただ、お互いに
男であり女であることを確認する時間を、
自分たちは大切にしているんだと彼は言う。
わかる気がする。
まだ女であることを実感できること――
四十代の女にとって、とても切実な欲求だから。
もう一人、やはり四十を少し過ぎて、昔の彼女から連絡をもらった知人もいる。
まだ再会はしていないが、彼女のほうから、時々電話があるのだそうだ。
午前中、子供を学校に送り出して一息ついて
風に翻るベランダの洗濯ものを見ながら電話を掛けてくる、
空虚な日常の中で息を詰まらせている彼女の心のさまが、
電話越しに手に取るようにわかるのだと彼は言う。
そんなとき、女として癒されたい彼女の心をくすぐるような言葉を、
不器用だった若いときと違って
今の自分は苦もなく繰り出せるようになっている――。
もしも顔をあわせて会ってしまったら、どうなるかわからないと彼は話していた。
もしも結果を求めず
純粋に恋が出来たら、
もっともっと楽しかっただろうなぁ
二十代の読者の皆さんは、
四十や五十にもなって人が恋をしたりセックスをしたりするなんて、
おぞましいと思っているかもしれない。
恋といえば唯一無二の相手に純粋に身も心もゆだねるものと思っている人は、
本当に好きでもない相手と、ただ「女」を実感したいがために
恋のまねごとをしようとする心根をズルいと思うだろう。
私もそう思う。
でも、人っていろいろと不純な理由で恋をするものなのだ。
A氏と彼女との関係が「恋」であるかどうかは置いておいて、
四十代の恋に、もしも二十代の恋にない良いものがあるとすれば、
それは、互いへのいたわりだろう。
お互いに長い人生を生きてきて、「お疲れ様」と、肩をたたき合うような優しさが、
そこには確かにあるように思える。
いろいろな恋がある。
『恋をして恋を失った方が、一度も恋をしなかったよりましである』

という、有名な格言があるけれど、
本当にそうだろうかと、ふと思った。
「恋せよ、オトメ。」と題して綴ってきた
このエッセイの中でも、
私は無責任に皆さんの背中を押して、
恋をしなさいと励ましてきた。
恋は苦しくても楽しい。
だから恋はするものよ、と。
でも、そうだなぁ、自分を振り返ってみれば、
長く生きてきた間には、苦しいだけの恋も、
正直、無いわけじゃなかった。
それでもやっぱり、この歳になって思うことは、
もしも結果を求めず純粋に恋が出来たら、
もっともっと楽しかっただろうなぁということだ。
片思いで終わった相手とも、
いつか振り向かせたいとジリジリして
自分をすり減らしたり、
両思いになれない状態を嘆いたりせずに、
ただ一緒にいられることを天の恵みだと思って、
じっくりと感謝し味わえば良かった。
長いようで短い人生の中で、
好きな人と向かい合っていられる時間なんて、
どっちみち、ほんのわずかなんだから。
今、世の中はずいぶん殺伐としてきて、
若い女の子たちは恋愛よりも婚活に汲々としている感じだ。
ちょっと周りを見回してみても、
結婚の見込みのない相手はバッサリ切って安定を求める人が目立つ。
でも本当は、すったもんだや、傷つけ合い、
馴れ合いの向こうに結婚があるのであって、
そんなに早急に答えを出そうとしてもたいていはうまくいかない。
結婚というカードを、これは一生に一度のカードだと身構えて
慎重に切ろうとするあまり足踏みしてしまうよりは、
思い切って足を一歩前に踏み出すほうが、かえって道は開けると、実感している。
人を好きになることは、人生の中で、そうざらには起きない面白いこと。
私はやっぱりそう思う。
だから、恋を大切にしよう。
最期の日に、後悔しないで済むように。ね、皆さん。
※この連載は今回で終了になります。長い間、ご愛読ありがとうございました!
(Oggi2010年12月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)
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プロフィール
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'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。
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