TOP > 恋せよ、オトメ。 浅野妙子・連載エッセイ

恋せよオトメ。浅野妙子・連載・エッセイ

恋って、しないほうがましなのか?


恋愛って、本来、
とっても
みっともないものだと思う。


「分散恋愛」という本がある。手にとって見てみた。
いまどきの自立した女性が、いかに爽やかに、かっこよく、
泥沼にはまらず複数の男性との恋愛を楽しむか、
そのすべをハウツー的に書いたものだ。
複数の、という括りが過激な印象を与えるが、
よく読むと、複数の男性との恋愛を積極的に推奨しているわけでもなくて、
たったひとりのすばらしい恋人にめぐりあえないでいる女性に、
それでも自分は恋をしているんだと思い込めるよう、
「お友だち」を、心の中で「恋人」に昇格してあげて、
自分を慰め人生に彩りを添える、上手なやり方を説いてるようにも見える。
201011_1こんな掟がある。

○相手を束縛してはいけない。
○相手に束縛されてはいけない。
○心と心のつながりがなくてはならない。

こういう異性の「お友だち」がいたら、それは素敵だ。
でも、心と心のつながりってところが難しい。
自分の方はそう思っていても、相手がそう思ってくれていないこともあるからなぁ。
禁止事項はさらに続く。

○相手の私生活に踏み込まない。
○相手を私生活に踏み込ませない。
○主導権を相手に握らせない。

待てよ。
これじゃ、やっぱり「お友だち」じゃないか。
私生活に踏み込ませない恋愛って?
語義矛盾じゃないのか?
誰との恋にものめり込まず、のめり込みそうになったらサッと身をかわし、
自立した女としての自分のプライドを、何よりも大事にして生きる。
これって本当に恋愛か?

恋愛って、本来、とってもみっともないものだと思う。
恋をして、人は恋の奴隷になる。
主体性を奪われる。
自立した大人として、相手の自由を尊重したいと念じつつ、
自分でも制御できない独占欲や嫉妬に駆られて泣いたり、
喚いたりしてしまう。時には傷つき涙で枕を濡らす。
でも、その心の揺れが恋愛の醍醐味であって、それがない恋なんて。
傷つかずに済む範囲で、自分を守って上手にする恋なんて、
面白くもなんともないのでは?

恋愛は人を裸にする。
人にプライドを
捨てさせるものだ。



この分散恋愛の勧めは、社会学的には、「草食男子」の流行と一対をなしている。
よくわからないが、世の中には、傷つきたくない若い人がとても増えているらしい。
自分で恋愛を避けていると、意識できている人はまだいい。
私がうっすらと不安を覚えるのは、近頃の若い人(特に男子)の中に、
自分でも気がつかず無意識のうちに心の中で動く恋愛の芽を潰してしまい、
うまれてこのかた恋をしたことがない、
恋をする能力そのものすらなくしてしまっている人たちがずいぶんいるような気のすることだ。

このあいだテレビを見ていたら、
作家の渡辺淳一氏が、なかなか恋のできない若い人たちにゲキを飛ばすコーナーがあって、これがなかなか痛快だった。
若い男の子がおずおずと言う。

「交際を申し込んでも、断られるんじゃないかと思うと、怖くて、女性に声がかけられないんです。
断られると僕はすごく傷ついてしまうから」

渡辺氏は、ばっさりと言う。

「君はそんなに自分をいい男だと思ってるのか。断られて当然なんだよ。
だから、声をかけるんだよ」

201011_2神経が繊細で少しでも冷たくされたりバカにされると落ち込んで立ち直れないから、いっそ恋などしないほうがましとカラに閉じこもる新世代と、
恋愛なんて一勝九敗でいいんだからとにかくぶつかってみるもんだと豪語する旧世代の対比が鮮やかで面白かった。

七十を超えて尚、意気盛んな渡辺氏。
氏の小説はエロ過ぎてなかなか手にとれない私だけれど、
若い人への強気なアドバイスには共感できた。

恋愛は人を裸にする。人にプライドを捨てさせるものだと、私は思う。
その結果、報われずとも相手のためを思い、
無償で相手に尽くすというかたちを取ることもある。
そこまでいかないにしても、
恋愛のさなかには、愛する対象に向かってわけもわからず捨て身で
自分を投げかけていく感覚がある。
そのとき、人の心は自由になる。
爽やかにもなる。
小さなプライドにしがみついて守ろうとする心の自由より、ずっと大きな自由を得る。

恋はしてみるものです、やっぱり。
それもうんとみっともなくて、恥ずかしい恋を。

(Oggi2010年11月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)



※この記事に関するご感想・ ご意見はコメント欄にご記入ください※
※浅野妙子さんへのメッセージは、メールにてコチラにお送りください。
≫浅野さんへの メッセージはコチラ



コメントする

名前
URL
 
  絵文字
 
 

Back Number

バックナンバーをすべて見る

バックナンバーをすべてみる
プロフィール

'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。


※各記事に関するご感想・ご意見はコメント欄にご記入ください※
※浅野妙子さんへのメッセージは、メールにてお送りください。
≫浅野さんへのメッセージはコチラ