TOP > 恋せよ、オトメ。 浅野妙子・連載エッセイ
人は、なぜ人を好きになるのか。
人の一生に起こる出来事の中で、掛け値なしに一番スリリングで、
興味深く、ドラマチックな出来事。
「ミセス・シンデレラ」「ラブジェネレーション」「神様、もう少しだけ」最近では「ラスト・フレンズ」……ラブ・ストーリーばかり、何本も書いてきた。
人の一生に起こる出来事の中でも、恋愛は掛け値無しに一番スリリングで、興味深く、ドラマチックな出来事だと心の底から私は思っている。でもその恋愛を、面白く描くのは難しい。そして、今でも一番難しいと思うのは、人がなぜ人を好きになるかを、説得力をもって描く描き方だ。
友人の男性シナリオライターが、こんなことを言っていた。
「男が女を好きになるのをドラマで描くのは簡単。ただ、『ひとめ見て、ぽーっとなる』ってシーンを書けばいい。
でも、女が男を好きになるのを描くのは難しい。ちゃんとした理由が無いと」
確かに、男というのは視覚的な動物で、綺麗な女の子をパッと見て何となく好きになり、よく知りもせずに入れあげることが多い―
―ような気がする。
女はそうはいかない。男を、もっと吟味してから好きになる。見た目が好み だから、カッコイイから好きになるというのは少数派で、少なくとも、相手の人となりを知るキッカケがあり、性格の良さにキュンとするとか、みどころを知って「お」と思うとか、「見た目」プラス「何か」がないと、恋愛にまで感情が高まらない―
―ような気がする。
それに、ドラマの視聴者は八割方が女だ。女性心理には敏感だから、適当なホンを書いてると、「なぜヒロインがこんな男を好きになるのかわからない」と言われてしまう。たとえその対象が木村拓哉や福山雅治でも、「そりゃあひとめ見れば好きになるでしょう!」と、開き直るわけにはいかない。
恋をしたときの、目も前の窓が開かれていくような感じを
誰もが知っている。
ところで、ラブ・ストーリーの中には、シンデレラ・ストーリーと呼ばれるカテゴリーがある。
どちらかというと不幸な境遇にある女性が、王子様のような男性の出現に胸ときめき、恋愛によって不幸な境遇から救われるというお話だ。私の作品では、「ミセス・シンデレラ」「神様、もう少しだけ」、そして今書いている「イノセント・ラヴ」がこれにあてはまる。
このタイプの話には、ツボにはまると女性視聴者を惹きつけて離さない独特のパワーがある。女はシンデレラ・ストーリーに弱いのだ。なぜだろう。気がついてみると、そうした作品の中で、男は、女にとって、いつも世界の窓みたいな役割を果たしている。
たとえば「ミセス・シンデレラ」は、十年近く前に書いた処女作だが、姑のイビリ夫の無関心にじっと耐えている主婦が、音楽家の青年とある日公園で知り合って、不倫と呼ぶには可哀想なくらいにひたむきな恋に落ちてく物語だった。
「神様、もう少しだけ」では、エイズに侵された少女がロックスターとの恋愛に救いを見いだしていく。そして、今期放映されている「イノセント・ラヴ」においては、罪を犯して服役中の兄がいるために世間から完全に孤立して生きているヒロインが、心優しい一人の青年に恋をし、その片恋にすがるように生きていく。
彼女たちにとって、「彼」は耐え難い日常の中にあいた風穴で、その小さな窓を通して、彼女たちは外の世界に触れることが出来るのだ。その穴から顔を出して、やっと息をするみたいな感じで。
実際には人は――女は、たとえエイズに侵されていたり、犯罪者の身内などいなくても、平々凡々と流れていく日常の中に息苦しく閉じこめられている。だからきっと、視聴者はヒロインに共感できるのだ。恋をしたときの、目の前の窓が開かれていくような感じは、誰もが知っていることだから。恋愛は人を、別世界に連れていってくれる。でも、それは厳密には「別世界」ではなくて、今まで通りの世界だ。
いつも歩いている街の情景がいつもよりも活き活きと見え、空が青く見え、夕焼けが、涙がこぼれるほど美しく見える。世界はこんな色とかたちをしていたのかと、恋は人に気づかせくれる。恋は人を敏感に、繊細に、無防備にする。それは素晴らしい感覚なのだけれど、繊細になるということは、傷つきやすくなるということでもある。
傷つくのが嫌で、せっかく開きかけた窓の前から逃げ出してしまう人もいる。もったいない話だ。
私はもう人生を半ばまで生きてきたので、こんな現象が、そうそう起こらないことを知ってる。恋は恋それ自体で素晴らしい。ハッピーエンドで終わるとしても、たとえそうでないとしても。ラブストーリーを描きながら、私は一人、呟いている。「命短し恋せよ乙女」と。
(Oggi2009年1月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)
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興味深く、ドラマチックな出来事。
「ミセス・シンデレラ」「ラブジェネレーション」「神様、もう少しだけ」最近では「ラスト・フレンズ」……ラブ・ストーリーばかり、何本も書いてきた。
人の一生に起こる出来事の中でも、恋愛は掛け値無しに一番スリリングで、興味深く、ドラマチックな出来事だと心の底から私は思っている。でもその恋愛を、面白く描くのは難しい。そして、今でも一番難しいと思うのは、人がなぜ人を好きになるかを、説得力をもって描く描き方だ。
友人の男性シナリオライターが、こんなことを言っていた。「男が女を好きになるのをドラマで描くのは簡単。ただ、『ひとめ見て、ぽーっとなる』ってシーンを書けばいい。
でも、女が男を好きになるのを描くのは難しい。ちゃんとした理由が無いと」
確かに、男というのは視覚的な動物で、綺麗な女の子をパッと見て何となく好きになり、よく知りもせずに入れあげることが多い―
―ような気がする。
女はそうはいかない。男を、もっと吟味してから好きになる。見た目が好み だから、カッコイイから好きになるというのは少数派で、少なくとも、相手の人となりを知るキッカケがあり、性格の良さにキュンとするとか、みどころを知って「お」と思うとか、「見た目」プラス「何か」がないと、恋愛にまで感情が高まらない―
―ような気がする。
それに、ドラマの視聴者は八割方が女だ。女性心理には敏感だから、適当なホンを書いてると、「なぜヒロインがこんな男を好きになるのかわからない」と言われてしまう。たとえその対象が木村拓哉や福山雅治でも、「そりゃあひとめ見れば好きになるでしょう!」と、開き直るわけにはいかない。恋をしたときの、目も前の窓が開かれていくような感じを
誰もが知っている。
ところで、ラブ・ストーリーの中には、シンデレラ・ストーリーと呼ばれるカテゴリーがある。
どちらかというと不幸な境遇にある女性が、王子様のような男性の出現に胸ときめき、恋愛によって不幸な境遇から救われるというお話だ。私の作品では、「ミセス・シンデレラ」「神様、もう少しだけ」、そして今書いている「イノセント・ラヴ」がこれにあてはまる。
このタイプの話には、ツボにはまると女性視聴者を惹きつけて離さない独特のパワーがある。女はシンデレラ・ストーリーに弱いのだ。なぜだろう。気がついてみると、そうした作品の中で、男は、女にとって、いつも世界の窓みたいな役割を果たしている。
たとえば「ミセス・シンデレラ」は、十年近く前に書いた処女作だが、姑のイビリ夫の無関心にじっと耐えている主婦が、音楽家の青年とある日公園で知り合って、不倫と呼ぶには可哀想なくらいにひたむきな恋に落ちてく物語だった。「神様、もう少しだけ」では、エイズに侵された少女がロックスターとの恋愛に救いを見いだしていく。そして、今期放映されている「イノセント・ラヴ」においては、罪を犯して服役中の兄がいるために世間から完全に孤立して生きているヒロインが、心優しい一人の青年に恋をし、その片恋にすがるように生きていく。
彼女たちにとって、「彼」は耐え難い日常の中にあいた風穴で、その小さな窓を通して、彼女たちは外の世界に触れることが出来るのだ。その穴から顔を出して、やっと息をするみたいな感じで。
実際には人は――女は、たとえエイズに侵されていたり、犯罪者の身内などいなくても、平々凡々と流れていく日常の中に息苦しく閉じこめられている。だからきっと、視聴者はヒロインに共感できるのだ。恋をしたときの、目の前の窓が開かれていくような感じは、誰もが知っていることだから。恋愛は人を、別世界に連れていってくれる。でも、それは厳密には「別世界」ではなくて、今まで通りの世界だ。
いつも歩いている街の情景がいつもよりも活き活きと見え、空が青く見え、夕焼けが、涙がこぼれるほど美しく見える。世界はこんな色とかたちをしていたのかと、恋は人に気づかせくれる。恋は人を敏感に、繊細に、無防備にする。それは素晴らしい感覚なのだけれど、繊細になるということは、傷つきやすくなるということでもある。
傷つくのが嫌で、せっかく開きかけた窓の前から逃げ出してしまう人もいる。もったいない話だ。
私はもう人生を半ばまで生きてきたので、こんな現象が、そうそう起こらないことを知ってる。恋は恋それ自体で素晴らしい。ハッピーエンドで終わるとしても、たとえそうでないとしても。ラブストーリーを描きながら、私は一人、呟いている。「命短し恋せよ乙女」と。
(Oggi2009年1月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)
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プロフィール
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'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。
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