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恋せよオトメ。浅野妙子・連載・エッセイ

それでも人は、なぜ恋をするのか。

女たちは、大きく二つのタイプに分類される。

ウディ・アレンの新作、「それでも恋するバルセロナ」を、パンフレットの制作に協力する関係でひとあし先に見たのだが、本当に面白い映画だった。
スカーレット・ヨハンソンが可愛くて、ペネロペ・クルスがスゴくて、ハビエル・バルデムがセクシーで、とにかく見ていて笑えるし、身につまされる。
中でも、レベッカ・ホールが演じる、プライドの高いバリキャリのニューヨーク女。
旅行中にバルデム演じるあやしげなスペイン男に心まどわされ、アメリカに置いてきた挙式目前の婚約者とのケータイのやりとりが段々うわのそらになっていく様は、おかしかったし、気持ちがよくわかった。
婚約者は学歴も収入も申し分なく、性格も良いが、退屈きわまりないヤツなのだ。
こういうことは、人生には得てして起こる。
幸せになるための女の計算と、女心が逆ベクトルに引き裂かれてしまうジレンマは。

200909_1元スチュワーデスの女友達にこの映画の話をしたら、彼女はいたく共感していた。
彼女によれば、アラフォーの友人たちは、大きく二つのタイプに分類されるのだという。
若い頃に遊ぶだけ遊んで、ほどよい時期にパッと見切りをつけ、安全で経済的に恵まれた結婚をするタイプ。
「そういう子たちって、幸せなのよー。割り切ってるから」なるほど、なるほど。
そしてもう一つのタイプが、いいトシになっても結婚に結びつかない恋愛に身を焦がし、夜中に電話してきて少女のような恋バナにうつつを抜かすタイプ。
「いい子たちなんだけどねー、進歩がないの」さも、ありなん。
そういう彼女自身は恋多き独身女性。スチュワーデスを辞めた後は、ビジネスの世界で身をたて、女ひとり、堂々と世を渡っている。

昔は結婚も考えたという。でも、周囲から祝福され親も喜ぶような相手は、話もつまらないし、あっちのほうも正直、下手だったりする。そんな中、これは! と思う男に出会った。話が上手で、ほめそやしていい気分にさせてくれるし、ダイヤの指輪も買ってくれた。盛りあがってその気になったのだが、相手の二股が発覚して破局したという。

人というのは目の前にないもの、
自分の所有していないものを
常に追い求めてしまう。

「ショックだった?」と聞くと、
「あー。でも、そんなに好きじゃなかったから。たぶんそんなヤツだろうと思ってたしね」
「じゃあ、なんでつきあってたの!」
「だって、お金もあるし、結婚にはいいかもと思ったのよ。たぶん、浮気なヤツだろうと思ったから、私も、ほかと適当につきあって、バランス取ってたの」
そして、虚をつかれた私が黙っていると、
「若いときの、うーんと若いときの話よ! 軽蔑する?」と、聞いてきた。

もちろん、軽蔑なんかしない。
サバサバとそういうことを言ってしまえる彼女は嫌な女ではないし、第一私だってこのトシになれば、世の中、ドラマばりの純愛ばかりじゃないことも、女の恋愛や結婚には狡ずるさや計算がつきものなことも、身を以て知っている。結婚に向いた人、恋愛に向いた人を女は選ぶ。そのときのプライオリティーがお金だったり、頭の良さだったり、顔だったり、性格だったり、人によって違うだけだ。

たとえば、近頃読んだ絲山秋子の小説に、こんな一節があった。

「オトコなんて体が全てなのだ。余計なことは何も考えなくていい。しっかり働いてご飯を食べて、余った時間は助平なことだけを考えていればそれでいいのだ。オトコは体。オンナは脳味噌」

200909_2これは極論だ。極論だけれど、わからなくもない。私にしても、「コイツと二時間一緒にいるとキツイなあ」という相手と、短期間だがつきあったことがある。でも、とてもハンサムな人だったので、顔さえ見てればその間は楽しかった。だけど、こういう人と結婚は出来ない。
(いや、もちろん、「男なんて中身は皆、似たり寄ったりなんだから、結局顔よ」という意見もアリなのだ。ただ、私は顔だけだとやっぱり飽きる。そしてお金があっても飽きそうな気がする)

逆に、夫と出会ったときは、とにかく話が尽きなかった。この人となら何時間でも話していられると思った。当時、夫は大学院生で収入もなく別にハンサムでもなかったけれど、話が合うという一点と、この人は結婚してもたぶん絶対に偉ぶらない、夫ぶらない人だという直感があったが故に、「この男は『買い!』だ。よーし、なんとしても好きになろう」と私は思って、結婚に向け、つきあいだしたのである。

まぁ、でも、男も女も、人というのは目の前にないもの、自分の所有していないものを常に追い求めてしまうものなんだよね。どこかにあるかもしれない本当の幸福を、青い鳥のように捜して彷徨う心のありようを「それでも恋するバルセロナ」はよく描いた映画でもあった。
恋って、もどかしくて辛くて疲れるばっかりで。

それでもやっぱり人は恋をする。恋に乾杯。

(Oggi2009年9月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)




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プロフィール

'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。


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