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恋せよオトメ。浅野妙子・連載・エッセイ

人はなぜ親離れするのか。

近頃、母には「娘」を、娘には「母」を
感じるようになった。


二十代の頃は、自分にとって自立が大きなテーマだった。
学生の頃は「自立しなくちゃ」と、頭の中でだけ一生懸命考えていたものだったし、結局、就職せずに申し訳程度のバイトで小遣いを稼ぎながら実家にいた二十代の後半までは、同じ年頃で早く結婚した女友達から「早く自立しなさいよ」と言われて、ちょっと痛い思いをしたりもしていた。
二十九になって、ようやく家を出て一人暮らしを始め、まもなく彼氏(今の夫)と同棲するようになり、ほどなくして結婚した。

201010_1今の私は、人は何がなんでも自立しなくちゃいけないなどと、堅苦しく考えてはいない。
時期がくれば、なんとなく自立するものだと思う。
「自立」と言いながら親離れをしても、頼る相手が親から彼(または夫)に変わっただけという場合もあるだろうし、それはそれで、困ったことだとも思わない。
人は程度の差こそあれ誰かに頼らねば生きていけないものだろうし、自立と依存は、一本の線で簡単に
区切れるようなものでもないと考えている。

私には今、六十八になる母と、八歳になる娘がいる。
面白いもので、近頃、母には「娘」を、娘には「母」を感じるようになった。
そして、自分が親離れをしたんだなぁと、心から感じることが多くなった。

実家で母と暮らしていた二十代の間、私は経済的には無論のこと、精神的にも相当母に頼っていたように思う。母は外向的で、明るくしっかりした人で、家の中で唯一「常識人」である自分が、人嫌いで生活力に乏しい変わり者の夫(私にとっては父)と、娘(私自身)を支えていくんだと自負しているようなところがあった。「あんたは変わってるから」と、私はよく、母に言われていたものだった。
だが、自分の親が客観的にはどういう人間か、本当にわかるのは、親と離れて暮らしてからの話である。


娘のもつ「母」の匂いに、
私はいつの間にか癒されている。

三十三で長男を産んだとき、母が病院に見舞いに来てくれた。
個室ではなく大部屋だったので、カーテンでベッドを仕切った空間に、他の妊婦さんたちの視線を浴びながら母は入ってきて座り、十五分ほど話をして帰った。
その時、初めて私はうちの母親が、世間の母親とはだいぶ違うということに気がついた。

201010_2母は赤ん坊にあまり興味が無いみたいで、息子を抱いて赤ちゃん言葉であやすようなことは全然しない。短いカットソーにぴったりしたパンツ。二十代と変わらないスタイルを誇示するように座って、今、買ってきたばかりの服の話をして、愛嬌をふりまいて帰っていった。鉄壁のマイペース。いつも明るいということは、他人を全く気にしないということでもある。
「お母さんって、実はかなり変わってるじゃん!」と私は、思った。
まるで長い眠りから覚めて、初めて母という人を見たように。

以来、私は母の中に、年齢不相応の子供っぽい部分を多く見つけるようになった。
人の話を遮って、自分の話ばかりするところ、場の共通の話題が自分に興味の無い話題だとあからさまにつまらなそうな顔をして、強引に自分の趣味の話題(目下のところは社交ダンス!)に引き込むところ。そして案外あまえん坊なところ。
母にしてみれば、自分が変わったなどとは思ってもいないのだろう。
一面、それはその通りなのだ。母は昔から子供っぽい人だったのだ。近すぎて、私には見えていなかっただけで。

一方、八歳になる娘の方は、近頃、めっきり大人びてきた。
たとえば先日。大事にしていたパーティー用のパンプスを夫にゴミと間違えて捨てられてしまい落ちこんでいた朝のことだ。娘が夫を?り、言ってくれた。

「ママを泣かせちゃダメじゃない。私のお小遣いで、靴、買ってあげるよ」

娘をもって知ったことだが、どんなに幼くとも、少女の中には、「女」と「母」の要素がある。
娘のもつ「母」の匂いに、私はいつの間にか癒されている。

人がなぜ親離れをするかといえば、生きるために親が必要じゃなくなるからである。
すると、現金なもので、親の欠点がよく見えるようになる(男女の恋の場合も、実は同じようなことが起こる)。
女の子の成長はとても早いから、今は無条件に私の味方をしてくれている娘も、じきに私をみおろす目線をもち始めるだろう。その日はそう遠くないかもしれない。そのときに、あまり恥ずかしい母親にはならないように、気をつけていようと思う。


(Oggi2009年10月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)




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コメント一覧

    • 1. Yasmine
    • 2010年07月10日 01:36
    • 5 とてもよく分かります。
      私の娘はもうすぐ3歳になりますが、とても母性を感じます。
      そして、甘えている私がいることに驚きます。
      だけど、恥ずかしさはない。そんな感じです。
      これからも成長がたのしみです。

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プロフィール

'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。


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