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恋せよオトメ。浅野妙子・連載・エッセイ

龍馬はなぜ、モテるのか。


龍馬の女に注ぐ視線は、遠くてあたたかい。
さらりとしていて、そこはかとなく優しい。


NHKの大河ドラマ『龍馬伝』が好調である。
ということで、みんなが大好きな坂本龍馬、および福山雅治の魅力について考えてみることにした。

201006_1あの龍馬を、福山雅治が演じると聞いたとき、私は「これはナイスキャスティング!」と思って、見る前から楽しみにしていた。
龍馬の持つ、爽やかさ、スケールの大きさ、兄貴っぽさ、
なにものにも囚われない自由で恬淡としたところは、福山雅治という人の持つ魅力と重なる。
たとえば女性とのつきあい方にしても、決してベタベタせず囲い込まない感じがする。
遠くて高いところからさりげなく見守っているような、父性を感じさせるイメージだ。
これは、同じ人気者でも木村拓哉の魅力とは対照的だ。
私の業界人の友人がSMAPのコンサートに初めて行ったときのこと。
その日まで、特にファンでもなかった木村拓哉の「目」に秒殺された、と彼女は言っていた。
拓哉は「この会場中の女を一人残らず俺の目で殺してやる」と間違いなく思っており、その視線は確実にその効力を発揮していたと、言うのである。
確かに彼にはそういう並はずれた「目力」がある。
彼が愛する女に注ぐ視線は、強く意思的で、粘度を帯びている。
舐めるように、まといつくように見つめる熱くてセクシーな、「近い」視線だ。
五月から始まる月9ドラマ『月の恋人』の一話で、私は「お前が欲しい」という台詞を彼に言わせた。
反発し、自分のもとを去っていこうとする女をひきとめるための殺し文句だ。
木村拓哉が「目で殺す男」でなかったら、彼にあの、ねじ伏せるようなすごい目力が無かったら、私はそれが素晴しいシーンになることを確信して、こんなザッツ・ラブストーリーな台詞を書くことは出来なかったろう。

福山の、そして私が勝手に想像している龍馬の女に注ぐ視線は、こうではない。
遠くてあたたかい。
さらりとしていて、そこはかとなく優しい。
茫洋とした、春風みたいなまなざしなんである。

女を近くから見つめる男と、
遠くから見つめる男。
男には二つのタイプがある。

私の思い入れが強すぎるためか、いまのところ、NHKの龍馬は、そういう龍馬らしさをいまひとつ発揮してくれていない感じがする。
ちょうど十話目まで見たところだが、ここまでの龍馬は、汗も涙もたくさん流すし、とにかくなにごとにも熱く一生懸命なのだ。
ところがそういう「一生懸命さ」は、龍馬の魅力とも、福山雅治自身の魅力とも、ちょっとズレる気がする。
みんなが一生懸命なときに、一人、そっぽをむいて空なんか見てアクビしてるのが龍馬で、そんなところがはじめのうち人には「アホだ」「グズだ」と言われ、後には「器が大きい」と言われるようになっていったんじゃないか。
201006_2龍馬はモテる男で、彼の人生には輝く星座のように女たちが分布している。これもまた私の勝手なイメージだが、龍馬は普通の男がするように誰かを妻、誰かを愛人というふうに順番をつけて囲い込んだりせず、その時々、近くに来たり遠くに行ってしまったりする彼女たちを、差別することなく愛してたんじゃないかと思うのだ。

たとえばおりょうを妻にしたのは、たまたま彼女がそばにいたから、そして、彼女が彼の出会った中でも、一番出来の悪い野良猫みたいな、言ってみれば気楽な女だったからで、誰か特定の一人を思って独占しようとしたり、胸を焦がし号泣する、なんていうのは龍馬のイメージからほど遠い。

女を近くから見つめる男と、遠くから見つめる男。

男には二つのタイプがある。
後者のタイプは「みんなにも優しいのね。私のこと、ほんとに愛してくれてるの?」と、女から責められることが多いようだ。
でも女は得てしてそういう男にハマってしまう。
自分こそ龍馬の妻だと信じ込んで独身を通した千葉さな子みたいに。
そしてこれまた、私の勝手すぎるイメージだが、福山君は、そばにいるとあたたかいが目を離すとどこかに行ってしまいそうな、そんな罪つくりな優しさと魅力を十分に備えた男に見えるのだ。
―― 女としてはそんな龍馬を見てみたい。

龍馬が変貌する様を描くという制作者の弁もあるので、期待しつつ見守っていこうと思う。

(Oggi2010年6月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)



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プロフィール

'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。


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