TOP > 恋せよ、オトメ。 浅野妙子・連載エッセイ
男はなぜ、 「同志愛」が好きなのか。
私にとっては、ワールドカップにも劣らぬ
激しい消耗戦だった。
六月に開幕したワールド・カップ。
日本中が熱狂した試合の数々を、
私も自宅のテレビで
手に汗にぎって見つめていた。
どん底の状態から出発した日本代表が、初戦に勝利を収め、
一試合ごとに次第に結束し
チームとして成長していく様は、
まるでドラマを見ているみたい。
最後のパラグアイ戦後、
試合後に泣いて肩を抱き、
互いの健闘を讚え合う選手たちの姿に、もらい泣きした人も数多くいたと思う。
そして、私が脚本を担当した『月の恋人』も、
ちょうどパラグアイ戦の直後の七月一日にクランクアップした。
私にとっては、ワールドカップにも劣らぬ激しい消耗戦だった。
今回の月9を久々に担当して私が感じたのは、
これは、私個人の作品ではさらさらなくて、
チーム木村拓哉のプロジェクトXだ!ということだった。
そもそも、設定からして自分の自由にはならない。
今のテレビ局は広告収入が減ったせいか、
視聴率の取れる数少ないスターに対しては、とても低姿勢になっている。
こんな企画でいかがでしょうかと、企画書を書いてお伺いを立て、
何度もダメ出しをされてから、やっとスタートするのである。
『月の恋人』は、第一話を形にするのに三、四ヶ月かかっているのだが、
スタートしてからも中盤にさしかかると、俳優陣から様々な注文が入り始めた。
これは中傷でも愚痴でもなく事実として述べているのだが、
キャストが強い=お願いして出演してもらっている=言うことをきかなきゃいけない、
という構造がある。
キャストの意見がすべて的外れかというとそうでもなくて、けっこう鋭いところを突いてきたり、
プロデューサーやディレクターが極端な方向に走るのを軌道修正して結果的に私を助けてくれたり…
…ということもあるのだが、毎回、意見を吸い上げるとなると
どうしても台本づくりに時間がかかる。
出演者の間で脚本に望む方向性が対立してしまったときには
その調整もしなければならない。
そんなこんなで、私が直しをやっている間に、
次の回のプロットを新人の脚本家さんたちに先回りして考えてもらい時間を節約することになった。
脚本家チームの結成である。
自分がシュートを打てないときは、パスを出す。
全体の利益のために「個」を捨てる。
それが時にたまらない快感であることに、私は気づいてしまった。
チームでの仕事は、私には初めての経験だった。
今回はプロデューサーも二人、監督が三人、
脚本家チームは私の他に、新進の女性作家が二人と
経済や法律専門の男性が一人という大所帯になった。
ハリウッドあたりの連続ドラマではこういうやり方が主流かもしれないが、
「個」で勝負している脚本家にとってこれは本来、あまり好ましいシステムとは言えない。
でも、時間が無いのだから手分けしてやるしかない。
この人数がテーブルに顔を揃え、合議する。
昼の二時に始まった会議が、夜の二時まで続くこともある。
みんな疲労困憊する。
初回と最終回を担当した西谷弘はフジテレビきってのスター監督でその演出力には定評がある。
NHKのプロジェクトXなら「ここで、西谷が招集された♪♪~」と、
田口トモロヲさんのナレーションが入るところだ。
でも、ものすごく頑固で自分の意見をなかなか変えない人だ。
はじめのうちは遠慮していた新人さんたちも、会議を重ねるうちに段々と自分の意見を言うようになる。
プロデューサーふたりの意見も必ずしも一致しない。
モメにモメる。
ケンカする。
ストレスが溜まりまくる。
でも、議論が煮詰まったとき、誰かのアイデアで、すっと地平が開けることもある。
たとえば新人の意見を謙虚に聞くことでドラマが良いものになったりする。

自分がシュートを打てないときは、パスを出す。
全体の利益のために「個」を捨てる。
それが時にたまらない快感であることに、私は気づいてしまった。
日本中がテレビに釘付けになっていたカメルーン戦の夜、
私たちはフジテレビの社内の人々がサッカー観戦しつつあげる歓声や雄叫びを聞きながら、
会議室にこもりきりで打ち合わせを続けた。
そして朝になって最終話を脱稿する頃には、
まるで一試合をフルに戦ったイレブンのような、和気藹々とした一体感に包まれていたのである。
そうか、これなんだな、男の人が好きなのって。
男ってみんな、よほど特殊な人をのぞいては社会の中でチームで生きてるんだもんな。
ワールドカップに燃えるわけだよな。
『ROOKIES』が好きなわけだよな。
というわけで、このトシで思いもよらず社会勉強をさせてもらいました。
それはそれでけっこう楽しかったけど……
やっぱり脚本は、人に文句を言われずに、自由に、わがままに書きたいものです。
(Oggi2010年10月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)
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激しい消耗戦だった。
六月に開幕したワールド・カップ。日本中が熱狂した試合の数々を、
私も自宅のテレビで
手に汗にぎって見つめていた。
どん底の状態から出発した日本代表が、初戦に勝利を収め、
一試合ごとに次第に結束し
チームとして成長していく様は、
まるでドラマを見ているみたい。
最後のパラグアイ戦後、
試合後に泣いて肩を抱き、
互いの健闘を讚え合う選手たちの姿に、もらい泣きした人も数多くいたと思う。
そして、私が脚本を担当した『月の恋人』も、
ちょうどパラグアイ戦の直後の七月一日にクランクアップした。
私にとっては、ワールドカップにも劣らぬ激しい消耗戦だった。
今回の月9を久々に担当して私が感じたのは、
これは、私個人の作品ではさらさらなくて、
チーム木村拓哉のプロジェクトXだ!ということだった。
そもそも、設定からして自分の自由にはならない。
今のテレビ局は広告収入が減ったせいか、
視聴率の取れる数少ないスターに対しては、とても低姿勢になっている。
こんな企画でいかがでしょうかと、企画書を書いてお伺いを立て、
何度もダメ出しをされてから、やっとスタートするのである。
『月の恋人』は、第一話を形にするのに三、四ヶ月かかっているのだが、
スタートしてからも中盤にさしかかると、俳優陣から様々な注文が入り始めた。
これは中傷でも愚痴でもなく事実として述べているのだが、
キャストが強い=お願いして出演してもらっている=言うことをきかなきゃいけない、
という構造がある。
キャストの意見がすべて的外れかというとそうでもなくて、けっこう鋭いところを突いてきたり、
プロデューサーやディレクターが極端な方向に走るのを軌道修正して結果的に私を助けてくれたり…
…ということもあるのだが、毎回、意見を吸い上げるとなると
どうしても台本づくりに時間がかかる。
出演者の間で脚本に望む方向性が対立してしまったときには
その調整もしなければならない。
そんなこんなで、私が直しをやっている間に、
次の回のプロットを新人の脚本家さんたちに先回りして考えてもらい時間を節約することになった。
脚本家チームの結成である。
自分がシュートを打てないときは、パスを出す。
全体の利益のために「個」を捨てる。
それが時にたまらない快感であることに、私は気づいてしまった。
チームでの仕事は、私には初めての経験だった。
今回はプロデューサーも二人、監督が三人、
脚本家チームは私の他に、新進の女性作家が二人と
経済や法律専門の男性が一人という大所帯になった。
ハリウッドあたりの連続ドラマではこういうやり方が主流かもしれないが、
「個」で勝負している脚本家にとってこれは本来、あまり好ましいシステムとは言えない。
でも、時間が無いのだから手分けしてやるしかない。
この人数がテーブルに顔を揃え、合議する。
昼の二時に始まった会議が、夜の二時まで続くこともある。
みんな疲労困憊する。
初回と最終回を担当した西谷弘はフジテレビきってのスター監督でその演出力には定評がある。
NHKのプロジェクトXなら「ここで、西谷が招集された♪♪~」と、
田口トモロヲさんのナレーションが入るところだ。
でも、ものすごく頑固で自分の意見をなかなか変えない人だ。
はじめのうちは遠慮していた新人さんたちも、会議を重ねるうちに段々と自分の意見を言うようになる。
プロデューサーふたりの意見も必ずしも一致しない。
モメにモメる。
ケンカする。
ストレスが溜まりまくる。
でも、議論が煮詰まったとき、誰かのアイデアで、すっと地平が開けることもある。
たとえば新人の意見を謙虚に聞くことでドラマが良いものになったりする。

自分がシュートを打てないときは、パスを出す。
全体の利益のために「個」を捨てる。
それが時にたまらない快感であることに、私は気づいてしまった。
日本中がテレビに釘付けになっていたカメルーン戦の夜、
私たちはフジテレビの社内の人々がサッカー観戦しつつあげる歓声や雄叫びを聞きながら、
会議室にこもりきりで打ち合わせを続けた。
そして朝になって最終話を脱稿する頃には、
まるで一試合をフルに戦ったイレブンのような、和気藹々とした一体感に包まれていたのである。
そうか、これなんだな、男の人が好きなのって。
男ってみんな、よほど特殊な人をのぞいては社会の中でチームで生きてるんだもんな。
ワールドカップに燃えるわけだよな。
『ROOKIES』が好きなわけだよな。
というわけで、このトシで思いもよらず社会勉強をさせてもらいました。
それはそれでけっこう楽しかったけど……
やっぱり脚本は、人に文句を言われずに、自由に、わがままに書きたいものです。
(Oggi2010年10月号掲載 イラスト/大橋美由紀 本誌デザイン/十時かの子)
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プロフィール
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'94年に『無言電話』で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞にて佳作を受賞後、『ラブジェネレーション』( '97)や、『神様、もう少しだけ』( '98)、『大奥』( '05)、『ラスト・フレンズ』( '08)、『イノセント・ラヴ』( '08)、『八日目の蝉』( '10)、『月の恋人』( '10)など、数々の大ヒット作品の脚本を手がける。
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